これまでの記事では、加熱式たばこの特徴や開発の経緯に加え、使用者の健康状況にどの程度影響を与えるのかについて、臨床・非臨床さまざまな検証データを元に紹介してきました。今回は、加熱式たばこ使用者本人以外にも目を向け、屋内空気環境や周囲の人に与える影響について2回シリーズで考えていきたいと思います。まず、この【前編】では、加熱式たばこを屋内で使用した場合に、周りの空気環境にどの程度影響するのかを見ていきます。
紙巻たばこが周囲に与える影響は非常に深刻。受動喫煙問題に対して、日本で対策が強化されつつある
紙巻たばこの害は周知の事実であり、その煙の中には、心血管疾患、がん、慢性閉塞性肺疾患など、重大な喫煙関連疾患の原因となる有害性成分も多く含まれています。さらに、それらの有害性成分は、喫煙者が吸いこむ煙だけに含まれるわけではありません。紙巻たばこの先端から立ち昇る煙(副流煙)や喫煙者から吐き出される煙(呼出煙)の中にも多く含まれています。そのため、喫煙者の周囲の人は意に反してその煙を吸わされてしまうことになり、この「受動喫煙」による健康被害は以前から問題視されています。
CHECK!受動喫煙とは
たばこの煙には、喫煙者が吸う「主流煙」、喫煙者が吐き出した「呼出煙」、紙巻たばこから立ち上る「副流煙」があります。受動喫煙は、その呼出煙と副流煙が空気中に混ざった「環境中たばこ煙」を喫煙者の周りにいる人が吸い込むことをいいます。
紙巻たばこの煙に含まれる有害性成分は、主流煙より副流煙に多く含まれるものもあります。
受動喫煙に対して、これまで日本での対策は、それぞれの施設での努力義務に留まっていましたが、健康増進法の改正(2020年4月全面施行)によって、望まない受動喫煙の防止を図るための措置がなされました1)。具体的には、「屋内原則禁煙」、「20歳未満の喫煙エリアへの立入禁止」、「屋内の喫煙には喫煙室の設置が必要」、「喫煙室の標識掲示が義務付け」となり、特に健康への影響が大きい子どもや患者さんに配慮したルールが定められました。
また、このルール中において、加熱式たばこは「指定たばこ」として紙巻たばことは区別され位置付けられています。例えば、飲食店において、紙巻たばこは「喫煙専用室」の中で喫煙はできるものの、その部屋内では飲食サービスを受けることはできません。一方、加熱式たばこは「加熱式たばこ専用喫煙室」であれば、飲食サービスを受けることが可能となっています(図1)。
加熱式たばこが屋内の空気環境にどの程度影響を及ぼすかについて、さまざまな角度から検証が進んでいる
なぜ加熱式たばこは紙巻たばこと区別されて扱われているのでしょうか。また、加熱式たばこ使用によって、実際の屋内の空気環境にどの程度影響がでるのでしょうか。
PMIでは、加熱式たばこの評価プログラムの一環として、屋内空気環境(Indoor Air Quality、以下IAQ)への影響を検証する試験を行っていますので、その結果をご紹介します。
加熱式たばこ使用による屋内空気環境への影響(屋内空気環境試験用IAQルームでの検証、紙巻たばことの比較)
この試験は、実生活条件を再現して環境制御した試験用IAQルーム2)を用いて行われ、紙巻たばこ喫煙時とPMI社の加熱式たばこ(THS: Tobacco Heating System: 商品名IQOS)使用時のそれぞれの空気環境への影響を調べるべく、23種類の代表的な屋内空気環境の評価項目で分析しました3)。その結果、紙巻たばこ喫煙時には測定物質の多くで数値の増加がみられたのに対し、IQOS使用時の空気中からは、主に2つの物質(ニコチンとアセトアルデヒド)の増加がみられました。ただしこの増加は、基準値を大きく下回るものであり、他の物質における増加傾向は見られませんでした(図2)。ニコチンに関する空気の質(ニコチンの許容範囲量)について、現在日本ではガイドラインが存在しませんが、国際的なガイドラインで定められた数値よりかなり低い値であったことは注目すべき点です。欧州労働安全衛生機関では、ニコチンの曝露上限を500μg/㎥(8時間あたり)と定めていますが、それに対し、IQOS 使用では中央値の最大が 1.8 ㎍ /㎥ (1/275) という数値でした。また、アセトアルデヒドについては、厚生労働省のガイドラインで48 μg/㎥上限と規定されていますが、IQOS使用で測定された最高値は 5 μg/㎥であり、こちらも規定値よりかなり低い値でした。
さらに、加熱式たばこ使用による屋内環境への影響を調査するにあたり、厚生労働省と国立がん研究センターによる共同研究4)も行われていますので、その試験結果をご紹介します。
加熱式たばこ使用による「空気の質」の評価(サイズの異なる2つの屋内環境下での検証)
この試験では、換気を防いだ小さなシャワー室(0.8m×0.8m×高さ2.24m)および典型的な屋内環境試験条件(有効面積25㎥の部屋)という、2つの異なるサイズの屋内環境下で検証が行われました。小さなシャワー室で加熱式たばこまたは紙巻たばこを 50 回吸った後、空気中のニコチンとPM 2.5の濃度を測定し、屋内環境試験条件下で紙巻たばこを5.4 本/時間吸う場合と同等のパフ数で濃度を比較しています。その結果、シャワー室という小さな屋内環境では、加熱式たばこ使用による空気中のニコチン濃度は25.9~257μg/㎥、PM 2.5濃度は20~500μg/㎥程度となり、健康に支障のない許容濃度の範囲を超える結果となりました。しかしその一方で、25㎥の屋内環境下では、加熱式たばこ使用による空気中のニコチン濃度は許容上限を超えず、PM 2.5濃度も基準値を下回りました(図3)。この検証結果は、屋内での紙巻たばこ使用に関する環境条件について非常に示唆に富んだものだといえます。
また、PMIでは、人の存在や日常生活、可燃性製品の使用など、一般的によくある状況下で生じる物質が屋内空気環境にどれだけの影響を与えるかを検証する試験5)も行われています。
人の存在や日常活動、燃焼を伴う製品の使用が屋内空気環境へ与える影響 (屋内空気環境試験用IAQルームでの検証)
屋内空気環境試験用IAQルームを設置し(図4)、以下の影響の測定を目的として評価項目を設定、さらには、たばこ煙に関する環境試験で得られたデータも含めて分析が行われました。
<検証の目的>
これらが屋内空気環境にどれだけ影響するかを測定・分析
●人の存在
●燃焼を伴う製品使用の影響:ろうそく(ティーライト・キャンドル)、お香、紙巻たばこ
●日常活動の影響:運動、化粧品の使用、調理、飲酒
その結果、人が屋内空間に存在している時には、呼気、汗、皮膚から様々な物質が空気に放出されることが観察されたほか、運動や調理や飲酒などの人の日常活動や化粧品の使用、キャンドルやお香など燃焼を伴う製品の使用など、さまざまな要因によって屋内空気環境は大きく影響を受けることがわかりました(図5)。
さらに、この試験結果から明らかであるのは、紙巻たばこの煙しかり、他の可燃性製品の使用時にもみられるように、有害性成分を発生させる主な原因の一つが「燃焼」であるということです。
なぜ、加熱式たばこ使用時に発生する蒸気内には有害性成分が少ないのか。それは、加熱式たばこが「燃焼させずに加熱する」を基本原則として開発された製品であるからに他ならず、それによって紙巻たばこと比較して大幅な有害性成分の発生低減6)を実現しているのです。
CHECK!人が存在するだけでどのくらい屋内空気環境に影響するか
健康な人の場合、1849種類もの揮発性有機化合物(VOC) を放出します。その 874種類は呼気から、504種類は皮膚から放出されます。例えば、イソプレンは呼気中に最も豊富に含まれる炭化水素です。屋内の空調によって、人の放出物質のレベルは大幅に下げることが可能です。
これらの検証結果と、屋内空気環境に関する現在のガイドラインを考慮すれば、加熱式たばこの使用は屋内空気環境に悪影響を与えるものではないと考えられます。
ただし、加熱式たばこ使用による屋内空気環境への影響を調べる際には、純粋な加熱式たばこ使用の影響だけでなく日常生活のさまざまな活動の影響も大きく関係してくるため、それらの影響は注意深くモニタリングし、得られた検証結果は適切に解釈していく必要があるでしょう。
いかがでしたでしょうか。
加熱式たばこに健康リスクがないわけではありませんが、屋内空気環境に対して悪影響を及ぼさないことがお分かりいただけたかと思います。
続く【後編】では、IAQルームではなく実在のレストラン環境下での検証結果をご紹介していきます。加熱式たばこは実際の屋内空気環境全体にどの程度影響を与えるのか、加熱式たばこから発生する環境中たばこエアロゾルによる受動曝露試験をもとに考えていきたいと思います。
- 参考⽂献
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- 厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙。」(https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/)
- Mottier N, Tharin M, Cluse C et al. Validation of selected analytical methods using accuracy profiles to assess the impact of a Tobacco Heating System on indoor air quality. Talanta 2016; 158: 165-78.
- Mitova MI, Campelos PB, Goujon-Ginglinger CG et al. Regulatory Toxicology and Pharmacology 2016; 80: 91-101.
- Hirano et al. Int J Environ Res Public Health. 2020 Nov 18;17(22):8536.
- Mitova MI, Cluse C, Goujon-Ginglinger CG et al. Environmental Pollution 257 (2020) 113518
- Schaller J.P. et al. Regul Toxicol Pharmacol. 2016, 81, Suppl 2: S27-S47
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