今、「喫煙」が大きく変わりつつあります。喫煙者の中で、紙巻たばこから新たなたばこ製品(加熱式たばこなど)へのシフトが急速に進んでいるのです。それは世界的な潮流ともいえます.今回の記事では、世界のたばこ事情は今どうなっているのか、加熱式たばこなど紙巻たばこの代替品をどう評価すべきか、について最新の動向や科学的根拠をもとに考えていきたいと思います。
紙巻たばこの害をなくそうと、世界では、たばこ規制や禁煙政策、喫煙の害に関する教育など、さまざまな対策がとられていますが、喫煙率は思うように減少していないのが現状です。世界保健機関(WHO)によると、喫煙者の多くはいかなるたばこ規制政策下でも喫煙を続け、2025年の喫煙者数は約11億人と推定されています1)。現時点では、喫煙者ゼロへの道のりは遠く険しいものだといえるでしょう。 しかし、「紙巻たばこの蔓延を終わらせよう」「喫煙に関連する疾患や死亡を減らそう」という想いは世界共通であり、たばこハームリダクションのムーブメントは年々確実に高まっています(図1)。そして、紙巻たばこの代替品に対する議論も世界各地で盛んに行われています。 最近では昨年12月、「The E-Cigarette Summit」がイギリスのロンドンで開催されました(https://www.e-cigarette-summit.co.uk/)。科学者、公衆衛生専門家、医療従事者だけでなく、規制当局や産業界までもが一同に介するこのサミットは、立ち上げからすでに10年が経ち、科学的根拠に基づいた中立的な学会として定評を得ています。このサミットの盛り上がりからもわかるように、「喫煙の害をなくす最も効果的な戦略は何か」についての議論、そしてその答えの方向性に、今世界の視線が集まっているのです。
紙巻たばこからその代替品へという大きな流れ
さてここで、近年急速に普及が進んでいる新たなたばこ製品(紙巻たばこの代替品)について、今一度整理しておきたいと思います。紙巻たばこの代替品としては、大きく分けて「加熱式たばこ」と「電子たばこ」の2種類があります。
加熱式たばこと電子たばこの特徴をおさらい
「加熱式たばこ」の特徴
⽕をつけてたばこ葉を燃焼させるのではなく、特別に加工されたたばこ葉を電気で加熱することによって、煙ではなく蒸気を発⽣させます。例えば、フィリップ モリス社の加熱式たばこTHS(Tobacco Heating System: 商品名IQOS)では、たばこ葉が燃焼に至らないよう大幅に低い温度で加熱されるよう温度制御機能が搭載されています2)。「紙巻たばこ」と同様にニコチンを摂取しながらも、煙が出ない、灰が出ない、においも抑えられた特性の異なるたばこ製品といえます。さらに、⽕を使わない「加熱式たばこ」には、やけどの⼼配が少ない、⽕災のリスクも少ない3)という特性もあります。
「電⼦たばこ」の特徴
⾹料(フレーバー)などが⼊ったリキッドを電気で加熱することによって蒸気を発⽣させる製品です。必ずしもニコチンを含まず、ニコチンを摂取する場合はニコチンを添加したリキッドを気化させて摂取します(現在日本で販売されているリキッドにはニコチンが含まれていません)。
アメリカやヨーロッパ、他のアジア諸国では、若い世代を中心に紙巻たばこから電子たばこへの切替えが進んでいます(英語ではE-cigarette、E-Vapor、Vapeなどと呼ばれています)。一方⽇本では、電⼦たばこではなく、「加熱式たばこ」が切替えの主流です。市販されている主な加熱式たばことしては、「IQOS(アイコス):フィリップ・モリス・インターナショナル」、「Ploom TECH(プルーム・テック):日本たばこ産業」、「glo(グロー):ブリティッシュ・アメリカン・タバコ」などがあります。
厚生労働省の喫煙状況の調査によると、喫煙率全体として微減傾向の中、紙巻たばこ喫煙者は減少し、その一方で加熱式たばこ使用者は増加しています4)。また、たばこ製品の販売数量の推移をみても、紙巻たばこの販売数量が年々減少している中で、加熱式たばこの販売数量は増加しています5)6)。このことから、日本で実際に喫煙者の中で紙巻たばこから加熱式たばこへの切替えが進んでいることが見て取れます(図2)。
日本の喫煙者に加熱式たばこが支持されているワケ
紙巻たばこの代替品として、海外で「電子たばこ」が人気なのに対し、なぜ日本では「加熱式たばこ」なのかと、疑問に思う方もいるかもしれません。これには、日本の法規制も深く関わっています。電子たばこと加熱式たばこの違いも含めてみていきましょう。
電気で加熱する、“燃焼”を伴わない、煙が出ない、灰が出ないなどの点は「加熱式たばこ」と「電子たばこ」で共通していますが、「電⼦たばこ」では、たばこ葉が⽤いられていません。また、日本では法律(医薬品医療機器等法)により、ニコチンを含むリキッドの販売には許可が必要となっており、現在のところ許可を受けたリキッドは存在しないため、今⽇本で販売されている「電⼦たばこ」にはニコチンが含まれていません。⽇本においては、ニコチン含有の有無は「加熱式たばこ」と「電⼦たばこ」の大きな違いの⼀つとなっています(表1)。
つまり、日本では許可の問題でニコチンリキッドを使うのが難しく、ニコチン入りの電子たばこが販売できないため、加熱式たばこが紙巻たばこの代替品として主流になっているのです。逆に言えば、喫煙者にとって「ニコチンが含まれているかどうか」は、代替品選択の際の大きなポイントとなっているともいえます。
世界のたばこ事情 -喫煙対策はどのくらい進んでいる?
世界で紙巻たばこからその代替品へと移行が進む中、屋内での全面禁煙化など、喫煙対策も積極的に行われています。
世界で初めて国全体を全面禁煙とする法律が施行されたのは、アイルランドです(2004年)。その後、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、香港、トルコ、そしてアメリカの半数以上の州でも屋内を全面禁煙とする法律が成立しています。これは主に、紙巻たばこ喫煙による受動喫煙の被害を防ぐためのものです。現在、屋内全面禁煙の国は67カ国となり、途上国を含む世界各国に広がっています7)。
この喫煙対策の中における、紙巻たばこ代替品に対する扱いや解釈は、国によってさまざまです。シンガポールのように、非常に厳しい喫煙制限によって新たなたばこ製品の販売を全面的に禁止している国がある一方で、欧米などでは、新たなたばこ製品への切替えを政府が積極的に推進しています。例えばイギリスでは、たばこ規制計画(2017年発表)において、喫煙の害を低減するイノベーションとして代替品の開発を歓迎しています8)。日本では、2020年に改正健康増進法が全面施行されたことをきっかけに、公共施設や公共交通機関をはじめ多くの施設において原則屋内禁煙となり、喫煙対策はかなり進んだ印象です。ちなみに、この法改正によって、「加熱式たばこ」は「指定たばこ」として「紙巻たばこ」と区別されて位置付けられるようになり、飲食可能な「加熱式たばこ専⽤室」の設置も認められるようになりなした。
最後に、加熱式たばこに対する科学的検証は今どこまで進んでいるのかをみてみましょう。
科学的検証が進む加熱式たばこ
「紙巻たばこ」と「加熱式たばこ」は、特性が⼤きく異なる製品です。
まず、「紙巻たばこ」の煙と「加熱式たばこ」の蒸気とでは、その化学組成が全く異なります。フィリップ モリス インターナショナル(PMI)の研究によれば、紙巻たばこの煙は、⽔とグリセリンで質量の約37%を占めるのに対して、加熱式たばこの蒸気では、それらが約85%を占めており、ほとんどが⽔とグリセリンで構成されていることがわかっています9)。また、加熱式たばこは、たばこ葉を燃焼させずに加熱させるため、紙巻たばこと⽐べて、発⽣する有害性成分の量は⼤幅に低減されています。PMIの加熱式たばこTHS(Tobacco Heating System: 商品名IQOS)では、紙巻たばこの煙から発生する成分を100とした場合、THSの蒸気から発生する有害性成分の量は平均して90%以上低減されていることが実証されています9)(図3)。さらには、紙巻たばこから加熱式たばこへ切替えることで喫煙者自身の有害性成分への曝露が低減されるほか10)、加熱式たばこが周囲に与える影響もかなり限定的であることがわかっています11)。
加熱式たばこはまだ販売開始から日が浅いこともあり(「IQOS」の日本全国発売は2016年)、長期的な使用データはなく、喫煙関連疾患への影響までは、明確な結論を導き出すに至っていません。しかし、今存在する検証結果を見る限り、加熱式たばこは喫煙を続ける意思のある喫煙者にとって、より良い選択肢だといえるのではないでしょうか。
いかがでしたでしょうか。
これから先、紙巻たばこの代替品については、たばこ会社のみならず第三者機関においてもさまざまな角度からの科学的検証がなされていくことでしょう。紙巻たばこの代替品をどう評価すべきか、たばこ製品をどう規制していくべきか、世界の喫煙問題をどう解決すべきかなど、喫煙にまつわるディスカッションポイントはたくさんありますが、「煙のない社会」そして「紙巻たばこのない世界」の実現に向けて、今後さらにオープンかつ活発な議論が交わされていくことを望みます。
- 参考⽂献
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- WHO global report on trends in prevalence of tobacco use 2000-2025, third edition(https://www.who.int/publications/i/item/who-global-report-on-trends-in-prevalence-of-tobacco-use-2000-2025-third-edition)
- Schaller JP et al. Regul Toxicol Pharmacol. 2016, 81, Suppl 2: S27-S47
- 消防庁「加熱式たばこ等の安全対策検討会報告書」(平成31年)
- 令和元年「国⺠健康・栄養調査」(厚⽣労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/001066903.pdf)
- 一般社団法人 日本たばこ協会「たばこ関連情報> 加熱式たばこ統計データ> 年度別販売実績推移表(https://www.tioj.or.jp/data/index.html)
- 一般社団法人 日本たばこ協会「たばこ関連情報>紙巻たばこ統計データ> 年度別販売実績推移表(https://www.tioj.or.jp/data/index.html)
- 厚生労働省「e-ヘルスネットー進んでいる世界の受動喫煙対策―」(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-05-002.html)
- Global and Public Health. 2017. Towards a Smokefree Generation :A Tobacco control Plan for England.(https://www.gov.uk/government/publications/towards-a-smoke-free-generation-tobacco-control-plan-for-england)
- Schaller JP et al. Regul Toxicol Pharmacol. 2016, 81, Suppl 2: S27-S47
- Frank Ludicke MD et al. Nicotine & Tobacco Research. 2018, 161‒172
- Peitsch et al. Toxicological Evaluation of Electronic Nicotine Delivery Products. Chapter19. Passive Exposure to ENDP Aerosols(https://doi.org/10.1016/B978-0-12-820490-0.00005-5)
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