加熱式たばこがCOPDに与えるインパクト

近年喫煙者の中で、紙巻きたばこの代替品として加熱式たばこの普及が急速に進んでいますが、まだ新しい製品であるゆえに、その評価をめぐっては科学的議論が続いています。

今回、呼吸器疾患の専門家として著名なリカルド・ポローサ教授をお迎えし、加熱式たばこ使用による長期的な健康影響について、先生がCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者に対して行った最新の研究結果を踏まえながらお話を伺いました。

Riccardo Polosa /リカルド・ポローサ教授(医学博士)
カターニア大学(イタリア)の内科学教授、および同大学内の危害軽減を促進するための「センター・オブ・エクセレンス(CoEHAR)」の創設者。 これまでに、たばこ製品と健康に関する研究を数多く発表しており、特に、紙巻きたばこの喫煙を減らす戦略について造詣が深い。たばこ製品に関する専門家として、多くの政府機関や国際機関とも協力している。
Riccardo Polosa /リカルド・ポローサ教授(医学博士)

−先生が加熱式たばこの研究を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

紙巻きたばこの代替品に関する研究を始める前、私は正直、加熱式たばこのような製品を「まやかしもの」だと思い、その存在意義を疑っていました。しかし、懐疑的だったからこそ、自らの研究で確かめてみたいと思いました。客観的なデータをもとに実証してはじめて納得する、というのが科学者ですから。

また当時、喫煙者に対する禁煙アプローチに手詰まりを感じ、フラストレーションを抱えていたということもあります。私の施設の禁煙外来では、年間400〜500人の喫煙者の禁煙をサポートしていますが、私たちが手助けできているのは、イタリア国内に2,200万人いる喫煙者の中のごくわずかな人たちだけです。加熱式たばこが紙巻きたばこの代替品として有効なのであれば、喫煙者に対してもっと大きな変革を起こせるのではないか、もっと多くの命を救えるのではないかと考えたのです。

−先生が研究をスタートした頃、紙巻きたばこの代替品についての研究報告はまだ少なかったのでしょうか。

私たちが研究をスタートしたのは2016年頃ですが、その当時、紙巻きたばこ喫煙がCOPDを引き起こす原因であることは明らかだったものの、加熱式たばこがCOPD患者さんに対してどの程度のインパクトを与えるかについての情報はありませんでした。

−COPD患者さんにおいて、加熱式たばこが選択肢になり得るかどうか確かめたいと思われたのですね。

COPD患者さんの予後を改善する最善の方法は禁煙ですが、COPD患者さんの多くは症状があるにもかかわらず喫煙を続けています。このような患者さんに対して、紙巻きたばこの代替策を提案するのは理にかなっているのではないか、つまり、燃焼させないことによって有害性成分の発生を抑えた加熱式たばこのような代替品は、患者さんにとってよりよい選択肢になるのではないかと考え、それを自身の研究で明らかにしようと思ったのです。

−それでは、先生が行った加熱式たばこの研究について、その概要を教えてください

この研究では、紙巻たばこから加熱式たばこに切替えることで、紙巻たばこの喫煙をやめた又は大幅に減らしたCOPD患者の健康パラメータを3年間にわたって観察しました。これは、COPD患者さんにおける加熱式たばこ使用による健康へのインパクトを観察したものとして、最長期間の研究です。

試験デザインとして、加熱式たばこを使用しているCOPD患者において、12、24、36カ月後の「1日あたりの紙巻きたばこ喫煙本数」「疾患増悪回数」「肺機能指数」「患者報告アウトカム(CATスコア)」「6分間歩行距離」の変化を測定し、紙巻きたばこの喫煙を続けるCOPD患者群と比較しています。

その結果、加熱式たばこに切替えて紙巻たばこの喫煙をやめた又は大幅に減らしたCOPD患者群において、呼吸器症状、運動耐容能、QOLおよび疾患増悪回数の一貫した改善が見られました。対照的に、紙巻たばこの喫煙を継続したCOPD患者群(加熱式たばこ製品を全く使用しない群)では、有意な変化は観察されませんでした(図1、図2)。

図1 加熱式たばこの使用がCOPD患者のQOLにおよぼす影響(3年間の追跡調査)
図2 COPD対照群と加熱式たばこ使用群のCOPD憎悪回数比較(3年間の追跡調査)

−この研究結果で注目すべき点はどこですか?

加熱式たばこに切替えたことで、1日あたりの紙巻きたばこ喫煙量が大きく減っていることから、患者さんの健康上に大きなベネフィットをもたらしたと考えられます。さらに注目すべきは、この紙巻きたばこ喫煙量の低下は、短期的なものではなく、2年、3年と継続したという点です(図3)。つまり、長期に渡り喫煙再開が見られなかったということであり、このことに私は非常に驚きました。

図3 COPD大将軍と加熱式たばこ使用群の紙巻きたばこ喫煙量比較(3年間の追跡調査)

−この研究を通じて、加熱式たばこに対する認識はどのように変わりましたか?

研究前は加熱式たばこに対して懐疑的だったものの、研究開始からわずか数ヵ月で考えが変わり始めました。なぜなら、実際に患者さんが喜び幸せになっていく姿を見たからです。患者さんによっては、「紙巻きたばこをやめることができた!先生ありがとう!」と私に抱きつくほどの喜びようでした。

一般的に、イタリア人は薬を使う解決法を好まない傾向にあります。また、多くのイタリア人にとって紙巻きたばこは人生の楽しみの一つで、人との関係性を保つツールであり、朝のコーヒーとともにたばこを吸うというのが生活の一部になっているので、それを取り上げられることにネガティブなイメージがあります。禁煙しようと思うのは余程のことで、重篤な疾患にかかった時か、子供が生まれた時くらいのものです。このように、人生の楽しみを奪われたくない薬嫌いのイタリア人にとって、紙巻きたばこの代替品という選択肢があるのは、有り難いことだと思います。

−加熱式たばこが紙巻きたばこの代替品として患者さんに受け入れられた理由はどこにありますか?また、研究を通じて感じた加熱式たばこのメリットとは、どのような点でしょうか。

加熱式たばこが患者さんに受け入れられたのは、快適に使用できる上に、ニコチンが適切に供給されたからではないでしょうか。今まで喫煙によって得られていた楽しみが加熱式たばこへ切替えても奪われないという点は大きいと思います。

また、加熱式たばこへの切替えの最大のメリットは「紙巻きたばこの喫煙再開がない」ということです。従来の禁煙プログラムでは、多くの患者さんにとって禁煙の長期継続は困難を極めます。そのような患者さんに対して、今までとは考えの異なる新たなニコチン補充方法、それが加熱式たばこであると考えます。

−この研究結果は世界でどのように受け止められていますか?

現在、さまざまな国を講演で周っていますが、好意的に受け入れられています。紙巻きたばこの害をなくすための新たなアプローチに対して、世界の関心が非常に高まっていると感じます。もちろん、「COPD患者に加熱式たばこを提供するなんて」「加熱式たばこは禁煙の助けにはならない」というような反対意見をいただくこともあります。しかし、現時点では他に効果的な方法はありません。COPDの患者さんの選択肢として、「死」か「禁煙」かのどちらかしかないという状況で、どちらも受け入れられないとしたら、他の選択肢を検討するというのが戦略であり、先進的な考え方なのではないかと思います。

−これまでの経験や研究に基づき、禁煙したいという患者さんに対して先生はどうアプローチされているのでしょうか?

私の施設の禁煙外来では、患者さんに全ての選択肢を提示して、自らの意思決定で選んでいただきます。つまり、禁煙補助剤を使った治療法や行動変容のためのカウンセリングのほか、紙巻きたばこの代替品を使うという選択肢も全て提示した上で、ご本人に決めていただくというアプローチをとっています。

−患者さんに対して、紙巻きたばこの代替品に関しても、一つの選択肢としてしっかり情報を届けることが大事なのですね。

現在出回っている加熱式たばこの情報の中には誤った情報も多く、潜在的なリスクという点においても、検証されていない情報が一人歩きしているように思います。リスクばかりがフォーカスされ、ベネフィットについては十分に伝わっていないのではないでしょうか。加熱式たばこのベネフィットもリスクも、患者さんが意思決定するために必要な情報ですので、正確な情報提供によって患者さんの混乱を避けることが大切です。

Riccardo Polosa /リカルド・ポローサ教授(医学博士)②

−今後、加熱式たばこに関するどのような研究をお考えですか?

まず、この研究を継続して5年間フォローアップしていきます。さらには、COPD以外の疾患においても、加熱式たばこへの切替えによる影響を調べていく予定です。

また、今までは紙巻きたばこ喫煙者との比較研究でしたが、今後は、紙巻きたばこを一度も吸ったことがない母集団と比較するなど、残存リスクを把握するための分析研究も行っていきたいと考えています。

いかがでしたでしょうか。

安全なたばこ製品というものは存在せず、「加熱式たばこ」にもリスクがないわけではありませんが、COPDなどの喫煙関連疾患に罹患しているにもかかわらず喫煙をやめられない患者さんにおいて、より健康リスクの少ない代替品への切替えは、現実的かつ有効なアプローチといえるのではないでしょうか。

リカルド・ポローサ教授のこの研究をきっかけに、今後多視点での新たな研究が組まれ、長期的検証が実施されるなど、加熱式たばこについてのエビデンスが⼀層蓄積されていくことが望まれます。

本研究の論文
  1. Riccardo Polosa et al.「Health outcomes in COPD smokers using heated tobacco products: a 3-year follow-up」Internal and Emergency Medicine. 2021 Apr; 16(3): 687-696.(doi: 10.1007/s11739-021-02674-3. Epub 2021 Mar 23.)
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