加熱式たばこの健康への影響を探る
―臨床データでみる加熱式たばこの可能性―

これまで、紙巻たばこと加熱式たばこの違いや有害性成分の比較、そして加熱式たばこの蒸気内成分の全容解明にいたるまで、さまざまな分析結果を発表してきました。しかし、医療従事者のみなさんにとっての一番の関心事は、「加熱式たばこは使用者の健康にどう影響するのか」ではないでしょうか。

今回は、この疑問に答えるべく、これまでに得られている加熱式たばこに関する臨床データをご紹介しながら、実際の使用者における健康への影響について深掘りしていきたいと思います。

「たばこハーム・リダクション」の考えのもと開発されたのが「加熱式たばこ」。

紙巻たばこ喫煙者へ提案するのは、ベストではないが、ベターな選択肢。それが加熱式たばこの存在価値。

多くの喫煙者にとって禁煙は困難であるという現実

紙巻たばこの煙には、喫煙関連疾患(⼼⾎管疾患、がん、慢性閉塞性肺疾患等)の原因とされる多くの有害性成分が含まれています。そして、これら有害性成分が原因となり、世界で年間約600万⼈もの人が命を落としています1)。 この喫煙による害は周知の事実であり、害をなくす最善の方法は、「禁煙」であることは明らかです。しかし、今なお喫煙者の多くは、さまざまなたばこ規制政策下でも喫煙を続け、その数は世界で10億⼈以上とされています2)。さらに、禁煙外来に通っても治療終了9ヵ月後の禁煙継続の割合は3割程度というデータもあり3)、多くの喫煙者にとって、禁煙の実行と継続は非常に困難なことであるといえます。

加熱式たばこは、健康リスク低減をコンセプトに、紙巻たばこの代替品として開発された

そこで、禁煙推進の取り組みと同時に、成人喫煙者の健康へのアプローチとして重要となるのが、「たばこハーム・リダクション」という考え⽅です。これは、禁煙せずに今後も喫煙を続ける意思のある成人喫煙者に対し、より健康リスクの少ない選択肢として紙巻たばこの代替となる製品を提供できれば、公衆衛⽣にとってプラスになるという考え方です(図1)。この考えのもと、紙巻たばこの代替品として開発されたのが、「加熱式たばこ」です。リスクフリーではないため、加熱式たばこは喫煙者にとってベストとはいえませんが、ベターな選択肢だと考えられます。

図1 たばこハーム・リダクションの考え方

このように、「たばこ・ハームリダクション」という公衆衛生上の概念のもと、喫煙を続ける成人喫煙者に向けて開発されたのが、加熱式たばこなのです。

次に、加熱式たばこ使用による喫煙者の健康への影響について、今どこまでの検証がなされているのかみてみましょう。

加熱式たばこから発生する有害性および毒性レベルは、紙巻たばこに比べて大幅に低減されている(非臨床試験)

加熱式たばこは、たばこ葉を燃焼させるのではなく、加熱することで、煙ではなく蒸気を発生させるたばこ製品です。紙巻たばこは「燃焼」によって多くの有害性成分が発生するのに対し、燃焼を伴わない加熱式たばこでは、発⽣する有害性成分の量は⼤幅に低減されています。フィリップ モリス社(以下PMI)の加熱式たばこTHS(Tobacco Heating System: 商品名IQOS)では、紙巻たばこの煙から発生する成分を100とした場合、THSの蒸気から発生する有害性成分の量は平均して90%以上低減されていることが実証されています4)(図2)。また、紙巻たばこの煙とTHSの蒸気についての毒性評価も行われており、THSにおいて大幅な毒性低減が確認されています4)(図3)。非臨床試験の詳細についてはこちらを参照ください。

図2 紙巻たばこ(3R4F)の煙と比較した加熱式たばこ(THS)の蒸気に含まれる有害性成分の平均低減率
図3 実験用紙巻たばこの煙で測定された毒性レベルとの比較におけるTHSの蒸気で測定された毒性の平均低減率

加熱式たばこ使用者の健康への影響について、臨床的検証が進んでいる(臨床試験)

加熱式たばこは比較的新しいたばこ製品であり(IQOSの日本全国発売は2016 年)、使用者の健康への影響については臨床的検証が必要不可欠です。PMIでは、これまでにさまざまな臨床試験を実施してきていますので、その検証結果をご紹介したいと思います。

紙巻たばこからの切替えで有害性成分への曝露が低減(曝露低減試験)

喫煙を継続する意思のある成人喫煙者を対象に、「紙巻たばこの喫煙の継続」、「THSへの切替え」、「試験期間中は禁煙」の3群に無作為に割り付け、有害性成分の曝露を示すバイオマーカーの変化を評価しました。THSに切替えた喫煙者のバイオマーカーは、対象とした15種類全ての有害性成分について、試験期間中禁煙した喫煙者に近いレベルに推移しています5)(図4)。紙巻たばこから加熱式たばこに切替えることで、喫煙者の有害成分への曝露は低減されることが示されました

紙巻たばこからの切替えで喫煙関連疾患のリスクが低減する可能性(曝露反応試験)

アメリカにおける6ヵ月の曝露反応試験では、喫煙関連疾患との関係があるとされる8つの臨床リスク・エンドポイントについて検証しています。THSに切替えた喫煙者群では、禁煙した喫煙者群と同じ傾向を示し、紙巻たばこ喫煙継続群と比較して5項目で統計的に有意な差が示されました6)(表1)。紙巻たばこから加熱式たばこへの切替えは、喫煙を続ける場合と比べて、喫煙者の健康状態に有益であることがうかがえます。

加熱式たばこへの切替えが喫煙者の咳の発生を低減する可能性あり(咳に関するサーベイ調査)

喫煙者の多くには、いわゆる「喫煙者の咳」がみられます。これは慢性気管支炎の兆候で、禁煙によって低減します。PMIでは、自己申告サーベイに基づき、喫煙者がTHSへ切替えることで咳の発生を低減できるかどうかも検証しました。すると、THSに切替えた群において、試験開始時に「24時間以内に恒常的に咳が出る」と申告していた3分の1〜3分の2の被験者で、「切替え後数週間以内に咳が出なくなった」と報告しました。また、切替え群においては、3ヵ月目、6ヵ月目、12ヵ月目のいずれの観察期間でも、一貫して自己申告による咳の症状が著しく低減しました7) (図5)。

あわせて、前述した曝露反応試験のFEV1 %predの数値変化をみても、THSへ切替えることで呼吸機能が改善できる(喫煙者の呼吸が楽になる)可能性が示唆されます。

紙巻たばこから加熱式たばこへ切替えた場合の健康への影響および健康リスク低減可能性の評価については、現在、PMI以外のたばこ会社各社でも調査が実施されており、そこで取得された科学的データや知見は、透明性をもって情報提供及び公開されています。

例えば、日本たばこ産業株式会社では、外部医学専門家として熊谷 雄治先生(北里大学医学部附属 臨床研究センター 教授)を迎え、医療施設と連携し研究を実施しています。紙巻たばこ喫煙者が加熱式たばこ4種類のいずれかの使用に切替えた場合の健康懸念物質の曝露量を調査したこの研究では、加熱式たばこに切替えたグループにおいて、紙巻たばこの喫煙を継続したグループと比較し、測定した健康懸念物質の多くで曝露量が顕著に低減し、禁煙したグループと同様のレベルまで低減することが示されています8)(図6)。

図4 有害性成分の曝露の変化
表1 紙巻たばこと加熱式たばこによる喫煙関連疾患と関連する臨床リスク・エンドポイントの比較
図5 加熱式たばこへ切替えることで、喫煙者の咳の発生が低減
図6 紙巻たばこから加熱式たばこへの切り替えで、健康懸念物質の多くにおいて、曝露量が禁煙と同様のレベルまで低減

加熱式たばこのリスク低減可能性は科学的に裏付けられ、徐々に明らかに

長年紙巻たばこを販売してきた当社として、発生する有害性成分の量を低減し、より有害性の低い新しい製品(加熱式たばこなど)への切替えを促すため尽力することは、社会的責務であると考えます。そのため、加熱式たばこ市販後においても、安全性調査や臨床試験、疫学研究などのさまざまな科学的アプローチを通じ、外部からの疑問に対し真摯に答えていくべきだと考えています。
これから先、第三者機関や規制当局による様々な視点からの新たなデータがさらに出てくることで、加熱式たばこの健康リスク低減可能性の評価について徐々に明らかになっていくことでしょう。

いかがでしたでしょうか。

「たばこハーム・リダクション」という概念から生まれた、新たなたばこ製品である加熱式たばこ。発売以来、その健康への影響については、多くの方にとっての大きな関心事でしたが、昨今、様々な科学的検証がなされています。紙巻たばこから加熱式たばこへの切替えは、喫煙を続ける場合と比べて、喫煙者の健康状態に有益である可能性が、様々な臨床結果から明らかになってきているのです。

原著論文
  • Mark C. B. et al:Analytical and Bioanalytical Chemistry (2020) 412:2675–2685
参考文献

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