【後編】時代のスタンダードは燃焼から加熱へ
―最新研究結果から読み解く―

前編では、たばこ葉を”燃やす”紙巻たばこと”燃やさない”加熱式たばこについて、煙と蒸気の化学組成の違いや有害性成分の比較についてお伝えしました。今回は、加熱式たばこについてさらに深堀りし、「紙巻たばこより多く含まれる物質や未知の物質はあるのか」、「それらの有害性はどうなのか」という疑問にお答えしていきます。 フィリップ モリス インターナショナル社(以下PMI社)のジゼル・ベイカー氏(Global Vice President Scientific Engagement)とキャサリン・ゴウジョン・ジングリンジャー氏(Head of Chemistry Research)に「第29回環境化学討論会(大阪)」で発表した最新の研究結果を踏まえ、お話いただきました。

上写真:「第29回環境化学討論会(大阪)」でのPMI社ブース(紙巻たばことの比較実験)

―加熱式たばこに含まれる蒸気の全容を解明した研究試験結果を「第29回環境化学討論会(大阪)」で発表されたそうですね。すでにPMI社では加熱式たばこの蒸気に含まれる有害性成分の低減を実証されていましたが、今回なぜそのような試験を追加的に実施し発表されたのでしょうか。

キャサリン: 紙巻たばこの煙には、数千もの化学物質が含まれ、その内の約100種類は喫煙関連疾患の原因とされる有害性成分です。たばこ製品から発生する有害性成分の量をどれだけ低減できるかは、たばこ会社としての責務であり、そのアプローチとして販売したのが当社の加熱式たばこTHS(Tobacco Heating System:商品名IQOS)です。

すでに、加熱式たばこの蒸気に含まれる成分について、米国食品医薬品局(FDA)などが設定する有害性成分リストに基づき、紙巻たばこの煙と比較し、有害性成分が約90-95%低減されていることを実証してきましたが(前編参照)、この標的型の測定に対して「加熱式たばこの蒸気特有の未知の物質もあるのでは」、「蒸気には紙巻たばこの煙より多く含まれている物質も存在するのでは」という見方もあるだろうことは想定していました。私たちは、外部からの疑問に対して科学的エビデンスを構築し、真摯に答えを提供していくべきだと常々考えています。今回のこの研究にあたっては、解析手法の開発を含めて大変な労力と時間がかかりましたが、蒸気の全容について包括的に解明でき、非常に価値のあるエビデンスを発表できたと思っています。

キャサリン・ゴウジョン・ジングリンジャー氏

―加熱式たばこの蒸気の全容解明試験の概要とその結果について教えてください。

キャサリン: THSから発生する蒸気の全容を明らかにするため、実験用標準紙巻たばこ(3R4F)から発生する煙とTHSから発生する蒸気に含まれる化学成分について網羅的スクリーニングを実施しました。これは、2つの異なる試験で構成されています(図1)。

試験1:網羅的スクリーニング結果-THSの蒸気の化学組成はシンプルである

閾値を設け(対象:>100 ng/1本)、蒸気全体を把握するための「網羅的スクリーニング」を実施しました。閾値適用によって同定されなかったものは総質量の1%未満なので、THSの蒸気に含まれる成分のほぼ全てが同定されたといえます。それにより、3R4Fの煙からは約4800種類の化合物が同定され、532種類がTHSの蒸気で同定されました。THSの蒸気に含まれる化合物の数は、3R4Fの煙に含まれる数よりも圧倒的に少なく、その化学組成が非常にシンプルであることが分かります。

試験2:非標的差異スクリーニング結果-THS特有の化合物およびTHSにより多く含まれる化合物は少なく、その毒性的懸念は低い

さらに、「THSの蒸気により多く含まれる化合物」や、3R4Fの煙には存在せずTHSの蒸気にのみ存在する「THSの蒸気に特有の化合物」を確認するために「非標的差異スクリーニング」を実施しました。この試験は閾値を設けず実施しています。3R4Fの煙より「THSの蒸気により多く含まれる化合物」は54種類で、その内の3種類が紙巻たばこの煙には含まれない「THSの蒸気に特有の化合物」でした。これらの化合物は、THSのたばこ葉のブレンドや添加されたフレーバーなどに起因するものと考えられます(3R4Fは実験用の紙巻たばこを使用したが、THSは実際に市販されている製品を使用したため)。

キャサリン: THSの蒸気により多く含まれる化合物54種類(THSの蒸気に特有の化合物3種類を含む)について毒性学的評価も実施しました。毒性学的懸念がある4種類を特定し(グリ シドール、2-フランメタノール、3-モノクロロ-1,2-プロパンジオール、フルフラール)、THSの使用を通じての曝露レベルはヒト等価濃度(HEC)により定義される毒性学的懸念レベルを下回ることを確認しています1)。さらに、特定の化合物の毒性評価だけではなく、標準的毒性試験により、紙巻たばこの煙とTHSの蒸気についての全体的な毒性評価も行っており、大幅な毒性の低減も実証しています(図2)2)

図1 蒸気に含まれる化合物の全容
図2 実験用紙巻たばこの煙で測定された毒性レベルとの比較におけるTHSの蒸気で測定された毒性の平均低減率

―今回の試験結果を含め、THSの蒸気に関する分析データは公的機関に共有・協議されているのでしょうか。その場合、どのような評価を得ていますか?

キャサリン: 学会での発表に加えて、THSを米国で販売するための販売前申請の一環として、蒸気の分析データをFDAに提供しています。FDAはデータのレビューを行った上で「いくつかの化学物質は、遺伝毒性または細胞毒性を有するが、非常に低いレベルで存在している。これらによる潜在的影響よりも、含まれる有害及び有害性成分の数および水準が、紙巻たばこの煙に含まれるのと比べて大幅に低減されているということの方が、より重要である」と結論付けています3)

有害性成分の低減の実証や毒性試験、今回の蒸気の全容解明試験を通じて、THSをどう評価されますか。

ジゼル: たばこ製品について、発生する有害性成分の数と量が減れば、その毒性が減り、製品使用者の有害性成分への曝露量も減り、疾病リスクの低減へとつながっていきます。

蒸気の化学的解明は製品評価の第一歩であり、このシステマティックな科学的実証の枠組みにおいて、今回の試験を通じて有意義な科学的根拠がさらに積み上げられたと思います。

ジゼル・ベイカー氏

―加熱式たばこは紙巻たばこと同様に「悪」だという意見や、加熱式たばこに対する科学的批判も見受けられます。たばこ会社が提供するエビデンスに対する懐疑心についてどう感じていますか。

ジゼル: ご理解いただきたいのは、加熱式たばこなど、紙巻たばこの代替となる製品は、決して非喫煙者の方に向けた製品ではなく、今喫煙をされている方に向けた製品であるということです。

加熱式たばこについて、「たばこはたばこ、ニコチンを含んでいる、有害性成分はゼロになってない、ゆえに紙巻たばこと等しく悪」という声があります。もちろん、喫煙による害をなくす最善の方法は禁煙です。一方で、世界中の多くの喫煙者がいまなお喫煙を続けており、その喫煙者数は10億人以上という現実を見ていただきたいです4)。喫煙者たちは、日々有害性成分に曝露され続けている状況なのです。 もちろん、加熱式たばこにリスクがないわけではありません。それでも、積み上げられた現時点での科学的データに基づけば、喫煙を続ける喫煙者にとって、有害性成分と毒性が大幅に低減された製品は、間違いなく、紙巻たばこよりもベターな選択肢であると思います(たばこハームリダクションの考え方:図3)。

“現在の喫煙者へのアプローチ”という視点に立って、そしてオープンマインドでエビデンスを見ていただきたいと思います。

図3 たばこハーム・リダクションの考え方

―最後に改めて、今回の試験結果発表の意義についてお聞かせください。

また、リスク低減の実証に向けて今後どういったエビデンスをたばこ会社として提供していくべきか、お考えをお聞かせください。

キャサリン: 今回の試験結果は、当社が把握する限り、加熱式たばこの蒸気の全容を明らかにした最も包括的な特性解析であり、加熱式たばこを真に理解するという製品評価の重要な基盤になったと思います。今後も、革新的な科学的アプローチを続け、エビデンスを提供し続けたいと思います。

ジゼル: 今後は、関心が最も高いであろう2つの質問に答えるデータを生み出していきたいと思います。すわなち、「加熱式たばこに切替えることによる喫煙関連疾患のリスクへの影響はどうなのか」と「実際に、どのような人が加熱式たばこを使用しているのか(喫煙者の間での切替えは進んでいるのか、使用が意図されていない非喫煙者及び元喫煙者に使用されていないか)」です。これらについて、リアルワールドでのエビデンスを世に出すべく、現在研究と分析を進めています。

【知識のUPDATE】タール

タールとは、紙巻たばこの煙からニコチンと水分を除いて残った残留物(固体および液体の粒子状物質)の「重さ」を指します5)。あくまでも、その重さを指すにすぎないため、残留物がどういう物質で構成されているのかについて情報を示すものではありません。

非常に毒性の高い物質が高比率で、毒性の低い物質が低比率で含まれている場合もあれば、その逆もあります。つまり、タールは、製品のリスクや害の度合いを示す正確な指針とは言えません。実際、世界保健機関(WHO)も、タールは消費者にとって誤解を与える可能性があると指摘しています6)

1mgの低タールのたばこ製品であっても、高タールのたばこ製品と同様、燃焼を伴うたばこ製品である限り、喫煙関連疾患の原因となる有害性成分を多く含む煙を発生させます。 たばこ製品を比較する上では、それが紙巻たばこであれ、加熱式たばこなどの煙の出ない製品であれ、煙や蒸気の中に含まれる、有害性成分の量を分析することが重要といえます。

原著論文
  • Mark C. B. et al:Analytical and Bioanalytical Chemistry (2020) 412:2675–2685
参考文献
  • Response to August 4, 2017, FDA Advice and Information Request Letter including Non-targeted Differential Screening, Toxicological Assessment, and Peer Review Reports
  • J.P. Schaller et al. Regul Toxicol Pharmacol. 2016 Nov 30;81 Suppl 2:S27-S47.
    doi: 10.1016/j.yrtph.2016.10.001. Epub 2016 Oct 6.
  • FDA「 PMTA TPL Review」 Document p42
  • World Health Organization. Report on the global tobacco epidemic, 2015.
    http://www.who.int/tobacco/global_report/2015/report/en/
  • Directive 2014/40/EU of the European Parliament and of the Council of 3 April 2014.
  • WHO. Report on the Scientific Basis for Tobacco Product Regulation: Fifth Report of a WHO Study Group (2015)

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