FDAの決定:IQOSを「曝露低減たばこ製品」として販売許可

2020年7月、米国FDA(アメリカ食品医薬品局)は、フィリップ モリス インターナショナル(PMI)社製の加熱式たばこである「IQOS」について、「曝露低減たばこ製品」として販売することを許可しました。ここでは、IQOSが「曝露低減たばこ製品」としての販売が許可されるに至った経緯や、FDAの決定内容、その決定が日本に与える意味に迫ります。

※FDAから製品名「IQOS」で販売許可が下りているため、本記事では製品名を記載します。

FDAによって厳格となったアメリカでのたばこ製品の規制と、たばこハーム・リダクションへの歩み

FDAは、食品、医薬品、医療機器、化粧品等の許可や規制、安全性や有効性の評価を行うアメリカの政府機関です。2009年の「家族の喫煙予防とたばこ規制法」の発効により、すべてのたばこ製品の製造や流通、マーケティングを規制する権限が付与されました。それ以降、例えば、たばこ製品について”light”、”mild”といった表現の使用が規制され、また規制対象となっているすべてのたばこ製品について販売前に製品の科学的データを提出することが義務付けられました。さらに「MRTP (Modified Risk Tobacco Products:リスク修飾(軽減)たばこ製品)申請」が設けられ、リスク特性の異なるたばこ製品について、その特性に応じたリスクに関するコミュニケーションを消費者である成人喫煙者に対して行うためにはFDAによる許可が必要となりました。

MRTP申請には「リスク低減たばこ製品」と「曝露低減たばこ製品」という2つのカテゴリーがあり、どちらにおいても広範な科学的データを求められ、厳格な審査が行われます(図1)。科学的データの審査を経てFDAが販売を許可したたばこ製品だけが、成人喫煙者に対して「リスク低減」や「曝露低減」というコミュニケーションを付して販売できることになります。

2020年現在、法的規制枠組みの中で、たばこ製品のリスク特性によって異なるカテゴリーを設け、科学的検証データの審査や販売許可を行うたばこ規制当局は世界でFDAだけです。2017年のFDAの「たばこ・ニコチン製品規制に関する包括的計画」1)においても、成人喫煙者に紙巻たばこよりもリスクが低い新しい代替品に切替えることを奨励しており、FDAが「たばこハーム・リダクション」の考えに基づいていることが伺えます。

図1 FDA(アメリカ食品医薬品局)におけるMRTP申請

リスク低減たばこ製品の提供を目指すPMIの取り組みと、IQOSの曝露低減たばこ製品としての販売許可までの経緯

たばこ会社でありながら、PMIは企業ビジョンとして「たばこの煙のない社会」を目指しています。公衆衛生面からたばこは規制されるべきであり、健康への影響を懸念するのであれば喫煙を開始せず、喫煙者については禁煙すべきですが、それでも喫煙を続ける成人喫煙者には、よりよい選択肢を提供する必要性を訴えています2)。科学的データに基づいたリスクが低減されたたばこ製品の研究開発に注力し、IQOSを始めとした加熱式たばこや電子たばこといった煙の出ない製品を市販化しています。これらはアメリカを除く世界61の国と地域で販売されており、これまでに約1,170万人(2020年9月末現在)の成人喫煙者が従来の紙巻たばこによる喫煙をやめて、PMIの煙の出ないたばこ製品へ切替えたと推定されています3)

アメリカの喫煙率は年々減少していますが、それでも数千万人の喫煙者がいます4)。アメリカの成人喫煙者に「リスク低減」あるいは「曝露低減」のコミュニケーションを付してIQOSを販売するため、そしてアメリカがMRTPという制度を設けている世界唯一の国であることから、PMIは2016年12月、IQOSに関してMRTP申請をFDAに対して行いました。そして、申請から約3年半以上の審査期間を経て、2020年7月7日、FDAはIQOSを「曝露低減たばこ製品」として販売することを許可しました(図2)。これまでの科学的検証データから、FDAは「成人喫煙者と現在たばこ製品を使用していない人たちを含めた社会全体の健康にとってIQOSが有益であると考えられることが、これまでの科学的検証データによって示されている」と結論づけました5)。これによって、IQOSはMRTPとして最初に許可された唯一の加熱式たばこ製品であり、アメリカの成人喫煙者に新しい選択肢が提供されることになりました(注: 2019年、Swedish Match USA, Inc.のスヌース(かぎたばこ)製品が、MRTP申請を通じて「リスク低減たばこ製品」としての販売許可を得ており、IQOSはMRTPとして許可された「たばこ製品」としては2番目です)。

今回の申請では、長期的疫学データの不足などにより、提出された科学的検証データだけではリスク低減までは言い切れないとして、「リスク低減たばこ製品」としての許可には至りませんでした。ただし、FDAは結論の中で「合理的に考えれば、使用者個人の罹患率または死亡率の測定可能で実質的な低減が、今後の研究で実証される可能性が高いことを示唆している」6)とも述べており、「リスク低減たばこ製品」としての販売が許可されるためには、今後の市販後調査を含めた長期的な科学的研究が重要となります。

図2 IQOSに関するMRTP申請の経緯

IQOSが「曝露低減たばこ製品」として販売を許可された科学的根拠

IQOSはたばこ葉を燃やさず加熱し、ニコチンを含む蒸気を発生させるたばこ製品です。MRTP申請にあたって、PMIが提出した科学的検証データによれば、IQOSの蒸気に含まれる有害性成分と紙巻たばこの煙に含まれる有害性成分を比較すると、ニコチンの量についてはほぼ同じでしたが、その他の有害性成分については大きく低減していました(図3)7)。また、実際の使用による影響を調べるために成人喫煙者を対象とした臨床試験を行ったところ、紙巻たばこからIQOSへの切替えによって、一酸化炭素、ベンゼン、アクロレイン、1,3-ブタジエンなど15種類の有害性成分への曝露が大幅に低減し、禁煙した場合に近いレベルとなることが示されました(図4)8)。さらに喫煙関連疾患と関連があるとされる8つの臨床・リスクエンドポイントについて、IQOSに切替えた場合、禁煙した場合と同じ傾向を示し、5項目において、紙巻たばこの喫煙を継続した場合と比較して統計的に優位な差が示されました9)

PMIは、MRTP申請において、これらを含む非常に広範囲な非臨床・臨床試験データおよび市販後調査データをFDAに提出しました。

図3 「紙巻たばこ」の煙と比較した「加熱式たばこ」の蒸気に含まれる有害性成分の量の平均低減率
図4 有害性成分の曝露の変化

日本におけるたばこ製品に対する理解の変化とFDA決定が持つ意味

日本では、「たばこハーム・リダクション」という言葉そのものがアメリカなどの国と比較して浸透していません。2014年のIQOS発売当初は、加熱式たばこはたばこ事業法のもとパイプたばことして認可され、紙巻たばこと同様に規制されてきました。

しかし、その後「加熱式たばこ」という製品区分が設けられ、さらに2020年4月に全面施行された改正健康増進法では、加熱式たばこは、紙巻たばことは区別して規制されることになりました10)。また、日本のたばこ市場では、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」に見て取れるように、成人喫煙者の間で紙巻たばこから加熱式たばこへの切替えが進んでおり、アメリカがん学会の報告でも、IQOSの発売を契機に紙巻たばこの市場規模の減少が加速していることが示されています11)。このように、日本のたばこ製品にまつわる状況や理解は少しずつ変化しつつあります。

こうした中で、今回のFDAの決定は、どのような意味をもつのでしょうか。特定のたばこ製品が、科学的根拠に基づき、紙巻たばことは根本的に異なるたばこ製品であることが公的機関により示されたという意味で非常に歴史的かつ画期的なものです。そして、政府や公衆衛生当局が公衆衛生を保護および促進していくために、加熱式たばこをはじめとする煙の出ない代替製品と紙巻たばこを区別し、どう規制するかについて重要な例を示しているといえます。

今後、日本においても、すべてのたばこ製品を同じように扱うのではなく、科学的データに基づき、製品のリスク特性に応じた規制の在り方を考えるきっかけの1つになるのではないでしょうか。

Column

FDAが2020年7月にPMI社製の電気加熱式たばこ製品「IQOS」のMRTP申請について、「曝露低減たばこ製品」として販売することを許可したことを受けて、PMIは記者会見を行いました。その内容を一部抜粋して紹介します。

André Calantzopoulos, CEO
André Calantzopoulos, CEOのコメント要約
  • FDAによる決定は、これまで各国で続けられてきた喫煙開始の防止や禁煙推奨といったたばこ規制措置に加えて、成人喫煙者に新たな選択肢を提供することが公的に許可された歴史的な出来事です。
  • これまでのたばこ規制措置を継続するとともに、科学的に検証された、紙巻たばこの代替品となる煙の出ない製品と紙巻たばこを区別した規制は必要と考えます。
  • 人々の行動に変化を促し、紙巻たばこからこうした代替品へと切替えを促進することで、最終的には10年から15年後までに、段階的に紙巻たばこをなくすことができると考えています。
  • IQOSを始めとする加熱式たばこはすでに喫煙している成人喫煙者のための代替品であり、非喫煙者とくに未成年者に対しては使用できないようにすることが非常に重要です。
Dr. Moira Gilchrist
Dr. Moira Gilchristのコメント要約
  • IQOSはたばこ葉を燃焼させるのではなく、加熱します。
  • 紙巻たばこと比較すると、IQOSは有害および有害性成分の発生が大幅に低減されています。
  • そして、成人喫煙者が紙巻たばこからIQOSに切替えることで、有害および有害性成分への曝露が大幅に低減されます。
  • 今回のFDAの決定により、これらのメッセージを消費者である成人喫煙者に対して伝えることが許可されました。
  • 喫煙関連疾患に対する疫学的な影響を調査するには、長期的な追跡が必要です。PMIは科学的検証を継続し、FDAに今後もデータを共有し協議を続けていきます。
  • IQOSの蒸気にはニコチンが含まれているため、習慣性があり決してリスクフリーではありませんが、紙巻たばこを吸い続けるよりも、より良い選択肢です。
参考文献

PDFはこちら

ABOUT PMI SCIENCE

本サイトは、フィリップ モリス インターナショナル(PMI)が
開発、販売する煙の出ないたばこ製品についての科学的評価に関する情報を提供しています。