望まない受動喫煙を防止する、健康増進法の改正
2020年春、健康増進法の一部を改正する法律が全面施行されました。
望まない受動喫煙を防止するため、原則屋内禁煙となります。病院や学校、児童福祉施設、行政機関などでは敷地内は原則禁煙、屋内は完全禁煙となり、飲食店や商業施設、宿泊施設(客室内は禁煙、喫煙の選択可)、鉄道などでは屋内原則禁煙となっています1)*。
*都道府県や市町村が改正健康増進法以外に独自の喫煙ルールを定めている場合があります。
改定健康増進法における「加熱式たばこ」と「紙巻たばこ」の区別
所定の基準を満たす場合には、喫煙室の設置が認められていますので、これらの施設において完全に喫煙が禁止されるという訳ではありません1)**。
今回の改正健康増進法において、最近使っている人を見かけることも多い「加熱式たばこ」は、「指定たばこ」として「紙巻たばこ」とは区別されています。
飲食店において、「紙巻たばこ」は喫煙専用室にて喫煙可能ですが、ここでは飲食をはじめとするサービスなどの提供はできません。一方、「加熱式たばこ」専用喫煙室では、飲食をはじめとするサービスなどの提供が可能です。さらに、複数フロアがある施設においては、「加熱式たばこ」専用喫煙フロアを設けることが可能になっています(図1)1)。
**喫煙専用室、「加熱式たばこ」などの喫煙室(施設)では、未成年者の入室が禁止されています(従業員を含む)。
燃焼させない、煙が出ない「加熱式たばこ」
このように「加熱式たばこ」は、改正健康増進法では「紙巻たばこ」と区別されることとなりました。火を使わないたばことしてご存知かもしれませんが、製品としてどのような違いがあるのか、詳しく見ていきましょう。
「加熱式たばこ」と「紙巻たばこ」は、たばこ葉を使っているため、どちらもたばこ事業法上の「製造たばこ」に該当します。国内では「加熱式たばこ」として、IQOS(アイコス;フィリップ モリス)、Ploom TECH(プルーム・テック;JT)、glo(グロー;ブリティッシュ・アメリカン・タバコ)といった製品が販売されています。
「紙巻たばこ」では、たばこ葉を燃焼させることで850℃以上にも達し2)、それによって煙が発生します。煙は、においがあるだけでなく、喫煙関連疾患の原因となりうる有害性成分が含まれています。一方で、「加熱式たばこ」は、火をつけてたばこ葉を燃焼させるのではなく、電気で加熱することによって、煙ではなく蒸気を発生させます。例えば、フィリップ モリス社の加熱式たばこTHS(Tobacco Heating System: 商標名IQOS)では、たばこ葉が燃焼に至る温度より大幅に低い温度で電気加熱します。「紙巻たばこ」と同様にニコチンを摂取しながらも、煙が出ない、灰が出ない、においも抑えられた特性の異なるたばこ製品と言えるでしょう。さらに、火を使わない「加熱式たばこ」には、やけどの心配が少ない、火災のリスクも少ないという特性もあります(表1)。
「加熱式たばこ」についての科学的検証が進む
「加熱式たばこ」と「紙巻たばこ」の違いについて、たばこ会社各社で科学的検証も進められています。
「紙巻たばこ」の煙と「加熱式たばこ」の蒸気は、その化学組成が異なることが分かっています。フィリップ モリス インターナショナル(PMI)の研究によれば、「紙巻たばこ」の煙は、水とグリセリンで質量の約37%(18.22mg)を占めるのに対して、同社「THS」の蒸気では、それらが約85%(41.13mg)を占めており、ほとんどが水とグリセリンで構成されています3)。
さらに、実験用フィルターパットに「紙巻たばこ」の煙と「THS」の蒸気を収集すると、「紙巻たばこ」では実験用フィルターパットが茶色く染まり、視覚的にも排出される成分が異なることが分かります(図2)。
発生する有害性成分の低減
「紙巻たばこ」の煙には、6,000種類以上の化学成分が含まれていると報告されており、これらの中には喫煙関連疾患の原因となりうる毒性または発がん性のある成分も含まれていることが知られています 4)。
そのため、WHO(世界保健機関)やFDA(米国食品医薬品局)、カナダ保健省の公衆衛生機関は、「紙巻たばこ」の煙に含まれる有害性成分を指定しています。
「加熱式たばこ」は、たばこ葉を燃焼させずに加熱させるため、「紙巻たばこ」と比べて有害性成分の発生が少ないことがわかっています。PMIの研究では、実際にWHOなどのそれぞれの機関が指定する成分を評価すると、「紙巻たばこ」の煙から発生する成分を100とした場合、「THS」から発生する有害性成分の量は平均して90~95%低減されていることを実証しています(図3)3)。
有害性成分への曝露の低減
さらに、PMIでは喫煙者自身における有害性成分への曝露を調べるため、臨床試験も実施しました。
喫煙を継続する意思のある成人喫煙者を対象に、「紙巻たばこ」の喫煙の継続、「THS」に切替え、試験期間中は禁煙の3群に無作為に割付けて、有害性成分への曝露を示すバイオマーカーの変化を評価しています。「THS」に切替えた喫煙者のバイオマーカーは、対象とした15種類すべてについて、試験期間中禁煙した喫煙者に近いレベルに推移しています(図4)。「紙巻たばこ」から「THS」に切替えることで喫煙者の有害性成分への曝露が低減されることが示されています5)。
さらにPMIでは、有害性成分への曝露低減により、使用者にとって、どのような生体影響があるのかを調べる曝露反応試験も実施しています。
このように、「加熱式たばこ」は「紙巻たばこ」とは特性が大きく異なる製品で、その違いについて科学的検証も進められています。もちろん安全なたばこ製品というものは存在せず、「加熱式たばこ」にもリスクがないわけではありませんが、そのリスク特性に応じた規制の在り方の議論が求められます。
今後さらに、たばこ会社各社による科学的検証が進められるとともに、並行して第三者機関による検証も実施され、「加熱式たばこ」についての科学的知見が一層蓄積されていくことが望まれます。
Overview
- 2020年4月に健康増進法の一部を改正する法律が全面施行され、施設の区分に応じて原則禁煙となった。
- 改正健康増進法では、「加熱式たばこ」は「紙巻たばこ」とは区別され、飲食店において、加熱式たばこ専用喫煙室・フロアでは飲食等を行うことを可能としている。
- 「紙巻たばこ」と「加熱式たばこ」の大きな違いは、「紙巻たばこ」は、たばこ葉を燃焼させるのに対し、「加熱式たばこ」は、たばこ葉を燃焼させずに電気で加熱させることである。
- 「紙巻たばこ」の煙と「加熱式たばこ」の蒸気の化学組成は異なっており、「加熱式たばこ」の蒸気のほとんどが水とグリセリンである。
- 「加熱式たばこ」の蒸気に含まれる有害性成分は「紙巻たばこ」の煙に含まれる量に比べて低減されていることが実証されている。
- 臨床試験の結果より、「紙巻たばこ」から「加熱式たばこ」に切替えることで、喫煙者自身における有害性成分への曝露が低減されることが実証されている。
- 参考文献
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- 「なくそう! 望まない受動喫煙。改正法のポイント」(厚生労働省) (https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/point/)
- Baker, R. R. Temperature variation within a cigarette combustion coal during the smoking cycle. High Temperature Science 7. 1975, 236-247
- Schaller JP et al. Regul Toxicol Pharmacol. 2016, 81, Suppl 2: S27-S47
- Rodgman A, Perfetti TA. The chemical components of tobacco and tobacco smoke. 2nd Edition. CRC Press. 2013
- Frank Ludicke MD et al. Nicotine & Tobacco Research. 2018, 161–172