【前編】時代のスタンダードは燃焼から加熱へ
―燃やす・燃やさないで何が違う?―

近年、「加熱式たばこ」が紙巻たばこの代替として急速に普及しています。この記事では、紙巻たばこと加熱式たばこの特徴をおさらいした上で、たばこ葉を「燃やす・燃やさない」ことで具体的にどのような違いが生じるのか、特に、発生する煙と蒸気の成分の違いや有害性について、詳しくお伝えします。

これまでのおさらい:「加熱式たばこ」の最大の特徴は、たばこ葉を燃やさず加熱する点にあり

「加熱式たばこ」は、たばこ葉を“燃焼”させるのではなく、専⽤機器を⽤いて電気で“加熱”することで、ニコチンを含む蒸気を発生させ、それを摂取するたばこ製品です。「紙巻たばこ」は、たばこ葉を燃焼させることで最⾼温度 800℃近くまで達するのに対して1)、「加熱式たばこ」は、燃焼に至る温度より大幅に低い温度で電気加熱します。

国内ではIQOS(フィリップ モリス)、Ploom TECH(JT)、glo(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ)といった製品が販売されています。加熱式たばこは、⾹料などが⼊ったリキッド(溶液)を電気で加熱する「電⼦たばこ」とは異なり、たばこ葉を使⽤しているため、紙巻たばこと同様の「たばこ製品」の扱いです。

「燃やす」と「燃やさない」が生む違いとは

同じ「たばこ製品」であっても、「燃やす」と「燃やさない」とでは、具体的に大きく二つの違いが生じます。

<違いその1>やけどや火災のリスクの有無

火を使わず、燃やさない「加熱式たばこ」は、やけどの心配が少なく、火災のリスクが少ないという特性があります。たばこ火災は、住宅火災における死者の発生原因の上位を占めており2)、加熱式たばこによる火災発生リスクの低減が期待されます。

消防庁が2019 年にまとめた報告によれば、加熱式たばこ3製品(IQOS 2.4PLUS、PloomTECH、glo)について、「様々な安全対策に取り組まれており火災発生危険が紙巻たばこより低い」ことが確認され、さらに、紙巻たばこと加熱式たばこ3製品の火災発生危険を比較する実験を行ったところ、 加熱式たばこ3製品はいずれもたばこ火災を発生させなかったことから、「火災発生危険が紙巻たばこより低く、安全対策に取り組まれた加熱式たばこが普及すれば、たばこ火災の低減に一定の効果がある」と結論付けています3)

<違いその2>煙と蒸気の組成内容

紙巻たばこは、燃焼により「煙」が発生します。一方、加熱式たばこは、加熱により煙ではなく「蒸気」が発生します。紙巻たばこの煙と加熱式たばこの蒸気は似たように見えますが、生成過程の違いからその化学組成は大きく異なります(図1)。

また、実験⽤標準紙巻たばこ(3R4F)の煙と、フィリップ モリス社(以下、PMI 社)の加熱式たばこTHS(Tobacco Heating System:商品名IQOS)の蒸気について、それぞれ含まれる成分(固体・液体粒⼦状物質)を分析すると、3R4Fの煙は質量の約37%(18.22mg)が水とグリセリンであるのに対して、THSの蒸気ではそれらが約85%(41.13mg)と、ほとんどが水とグリセリンで構成されていることが分かります4)(図2)。

図1 紙巻たばこの煙と加熱式たばこの蒸気の科学組成の違い
図2 「紙巻たばこ」の煙と「加熱式たばこ」の蒸気の違いおよび組成の比較

紙巻たばこと加熱式たばこを「有害性」の観点で検証するとどう違うか

蒸気における化学組成の違いに加えて、たばこ製品において特に重要なのは、発生する煙と蒸気に、発がん性物質を含め喫煙関連疾患の原因とされる有害性成分がどの程度含まれているかです。これら有害性成分の多くは、燃焼に必要な400℃を超える温度によって生じ、それ以下の加熱ではほとんど生じないことが分かっています5)

世界保健機関(WHO)や米国食品医薬品局(FDA)、カナダ保健省などの公衆衛生機関は、紙巻たばこの煙に含まれる有害性成分についてのリストを作成し公表しています。2009年に公表されたFDA広範囲リストでは93 種類もの成分が掲載されています6)。 PMI社が、実験⽤標準紙巻たばこ(3R4F)の煙とTHS の蒸気に含まれる、リストに掲載されている有害性成分の量を比較したところ、THSの蒸気に含まれる量は3R4Fの煙に含まれる量と比較して平均90%以上低減していることが分かりました5)(図3)。FDA 広範囲リストに基づく測定データは、2018年9月FDAにも提供、PMI社ウェブサイトにおいても公開しています。

有害性成分の含有量について、日本の厚生労働省をはじめ、第三者研究7)も進められています。厚生労働省は、研究から得られた科学的知見として、主要な加熱式たばこ3 製品について、その主流煙には、「紙巻たばこと同程度のニコチンを含む製品もある」、現時点で測定できない化学物質もあるとした上で、「加熱式たばこの主流煙に含まれる主要な発がん性物質の含有量は紙巻たばこに比べれば少ない」と説明しています8)(図4)。

以上見てきたように、加熱式たばこの蒸気は、紙巻たばこの煙とは性質が大きく異なるものです。そして、燃焼しないことで有害性成分の発生量を大幅に低減させていることはさまざまなデータからも明らかです。たばこ製品から発生する有害性成分の量を抑制するためのポイントは、「燃焼させないこと」なのです。

続く【後編】では、加熱式たばこの蒸気には、紙巻たばこには存在しない特有の成分が存在するのか、さらにその成分に毒性はあるのかなど、「加熱式たばこの蒸気の全容」を研究結果をもとに明らかにしていきます。

図3 紙巻たばこ(3R4F)の煙と比較した加熱式たばこ(THS)の上記に含まれる有害性成分の平均低減率
図4 加熱式たばこにおける科学的知見

【知識のUPDATE】ニコチン

ニコチンの作用

ニコチンはたばこ葉にもともと含まれる物質で、脳を刺激し気分に影響を与える一方、習慣性があります。また、心拍数および血圧を上昇させる作⽤もあります。妊娠中または授乳中の女性、未成年者、心血管疾患がある人などはニコチン含有製品を使⽤すべきではありません。

ニコチンは喫煙関連疾患の直接的な原因ではない

たばこによる健康被害の直接的な原因はニコチンではありません。紙巻たばこの煙には何千もの化学物質が含まれています。慢性閉塞性肺疾患(COPD)や癌など深刻な病気を引き起こすのはニコチンではなく、この煙に含まれる化学物質の混合物です。多くの専門家からも、紙巻たばこが有害である理由はニコチンではなく、たばこ葉の燃焼により発生する有害性成分であるとの見解が示されています9)10)11)

ニコチンはベターな製品へ切替えてもらうための重要な鍵

喫煙者にとっての最善の選択肢は禁煙です。しかし、世界中の多くの喫煙者は喫煙を続けているのが実情です。喫煙者が紙巻たばこに比べてベターな製品(加熱式たばこなど)へと切替えるためには、紙巻たばこから切替えたいと思えるような、満足を得られる製品である必要があり、そのためにはニコチンが重要な役割を果たします。

参考文献
  • Baker, R. R. Temperature variation within a cigarette combustion coal during the smoking cycle. High Temperature Science 7. 1975, 236-247
  • 消防庁「 令和 2年版 消防白書 」
  • 消防庁「 加熱式たばこ等の安全対策検討会報告書 」(平成31年)
  • Schaller J.P. et al. Regul Toxicol Pharmacol. 2016, 81, Suppl 2: S27-S47
  • McGrath T.E.et al. Food Chem Toxicol. 2007 Jun, 45(6):1039-50
  • FDA「 Harmful and Potentially Harmful Constituents in Tobacco Products and Tobacco Smoke: Established List」
  • 稲葉洋平他. 保健医療科学2020, 69, No.2: 144-152
  • 厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究「非燃焼加熱式たばこにおける成分分析の手法の開発と国内外における使⽤実態や規制に関する研究」
  • FDA「 Nicotine: The Addictive Chemical in Tobacco Products」
  • NICE Public Health Guidance「 Smoking: harm reduction」 (2013)
  • RCP London「 Nicotine without smoke: Tobacco harm reduction」 2016

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